みなさん、こんにちは。
このサイトの運営者であり、現役で日本語教師として働いているRIEです。
早速ですが、日本語には、ある行為をしてから、あまり時間が過ぎていないことを表す文型に「~たばかり」と「~たところ」という2つの文型がありますね。
皆さんはもし学生に使い分けの質問を受けたら、しっかり答えられますか?
今日は「たところ」と「たばかり」の使い分けについて話します。
【日本語初級】「たところ」と「たばかり」の使い分け
やってみよう
まずは問題を解いてみましょう。
Q 正しいほうを選んでください。
1.(電話で)
父:はい、山下です。
息子:あ、もしもし、お父さん?今、お母さん、家にいる?
父:ああ、いるよ。ちょうど仕事から(帰ってきたばかり/帰ってきたところ)だよ。
2. 先月(買ったばかり/買ったところ)なのに、もう壊しちゃった…。
3. (できあがったばかり/できあがったところ)のケーキをみんなで食べた。
答え
1. 帰ってきたところ
2. 買ったばかり
3. できあがったばかり
解説
「Aたばかり」と「Aたところ」は「Aのあと、あまり時間が過ぎていない」という意味ですが、その意味には少し違いがあります。
まず、1と2の問題をもう一度見てみましょう。
1.(電話で)
父:はい、山下です。
息子:あ、もしもし、お父さん?今、お母さん、家にいる?
父:ああ、いるよ。ちょうど仕事から(帰ってきたばかり/帰ってきたところ)だよ。
2. 先月(買ったばかり/買ったところ)なのに、もう壊しちゃった…。
1は「ちょうど」とあるので、お母さんが仕事から帰ってきた直後ということがわかります。では、2はどうでしょうか。「先月」とある通り、購入してから1ヵ月経過していますね。

まあまあ時間が経過してるような…。
と思う方もいるかもしれません。実は「たばかり」は話し手が短いと感じたかどうかが問題で、実時間はあまり重要ではありません。逆に「たところ」は時間がかなり経過していることには使えません。
では、3はどうでしょうか。
3. (できあがったばかり/できあがったところ)のケーキをみんなで食べた。
時間を表す言葉がないので、どちらを使っても良さそうですが、「たところ」は名詞と接続して「たところのN(名詞)」とすることができません。そのため、ここでは「できあがったばかり」が正しい答えになります。
「Aたところ」
「Aたところ」は「Aのすぐあと」「(ちょうど)Aしたとき・場面」という意味。実際に直後でなければ使えません。「Aたところ」を使うことで、Aの直後だということを強調することで、言外の意味を表すことができます。
・A:もしもし。ごめん、道が混んでて。あと10分ぐらいで駅に着くんだけど…。
B:もしもし。今、駅に着いたところだから。

「駅に着きました」はダメですか。
文法的には「駅に着きました」でもまちがいではありません。しかし、「駅に着いたところ」と言われると、「ちょっと前に駅についたから、焦らないでゆっくり来て。待ってるから」というニュアンスが伝わってきませんか。
・A:遅くなって、ごめんね。待った?
B:ううん、今、来たところ。
こちらの例も、「今、来ました」と言われるよりも「今、来たところ」のほうがいいですよね。「来たところ」と言うと、「遅れても、気にしなくていいですよ」と言われてるような感じがします。
「Aたばかり」
「Aたばかり」は実時間は関係なく、話し手が短いと感じたかどうかに焦点が置かれます。また、名詞と接続して「たばかりのN(名詞)」の形で使うこともできます。「Aたところ」は実際に直後であるということを強調する言い方ですが、「Aたばかり」は話者の感覚で「まだ時間がたっていない」と感じる場合に使われます。
・半年前にスマートフォンを買ったばかりなのに、もう落として画面を割ってしまった。
⇒買ってまだ半年しか経ってないのに、もう割っちゃった…。
・先月アルバイトを始めたばかりで仕事に慣れていないので、毎日とても疲れます。
⇒アルバイトを始めて1ヵ月しか経っていないから、仕事に慣れなくて疲れるのは当たり前。
・この店は先週開店したばかりで、まだお客さんが少ないです。
⇒開店してまだ1週間しか経っていないから、お客さんが少ないのは当たり前。
・はじめまして、高橋と申します。私は半年前に入社したばかりです。どうぞよろしくお願いいたします。
⇒入社してから今までの半年がとても早く、短く、自分はまだ未熟だ。
おすすめ書籍
以下の参考書に「たところ」と「たばかり」の使い分けの解説があるので、興味がある方は是非読んで見てください。
くらべてわかる初級日本語表現文型ドリル
ニュアンスや使い分けの難しい全55テーマを集め、丁寧に解説。教師にも学習者にも役立ちます。
初級の学習項目の中から、意味や使い方の違いがわかりにくいもの、よく混同されるものを取り上げ、丁寧に解説されています。見開き2ページで1つのテーマ(例えば、「行ったとき」と「行くとき」など)を扱っています。左側のページには比較対照表があって、ポイントがわかりやすく整理されています。右側のページは例文と確認問題があり実践力も高めることができます。
なお、こちらは中級もあります。
実際に使ってみた感想
私は初級と中級両方持っていますが、とても勉強になります。授業を進めていくと学習者から使い分けに関する質問が増えてきますが、こういった参考書があると自分の説明が正しいかどうか確認することもできますし、学習者にわかりやすく説明するための材料としても使えます。
はじめて日本語を教える人のためのなっとく知っとく初級文型50
外国人に日本語を教えることになったときに、知っていれば役に立つ初級文型のポイントをわかりやすくまとめられています。
本書では、「先輩教師」、「日本語を教え始めたばかりの教師」、「日本語学習者」の3名が登場し、この3名のやりとりを読みながら初級文型の知識が得られるようになっています。そのため、文法書にありがちな堅苦しさは一切なく、読みやすく楽しめる1冊となっています。
各課の構成ですが、文型がどんな場面や発話意図で使われているか、まず会話とイラストでチェックします。その後具体的な例題で自分なりにその文型の使い方を考えます。すぐに解説を見せるのではなく、自分で考えられるような構成になっているのがポイントです。最後にその文型のポイントと学習者が間違えるところや似ている表現との比較がされています。
実際に使ってみた感想
新米日本語教師のときにお世話になった1冊です。日本語を学ぶ人たちからの視点で日本語を見ることができるので、思わず「へ~、そうなんだ」「あ、そうか」と気づかされます。とにかく読みやすく、楽しめる1冊なので、これから日本語教師を目指す方、今まさに日本語教師として現場に立っている方におすすめです。

実は第二言語習得の際に「気づき」がとても重要だと言われているので、この本を読むと文型をどのように導入すればいいのかもよくわかります。
まとめ
今回は初級の文型「〜たばかり」と「〜たところ」の違いを紹介しました。
普段何気なく使ってるといざ違いを聞かれてもすぐには答えられないので、しっかり準備しておけるといいですよね!
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