日本語学習者から「こと」と「の」の使い分けを聞かれたけど、うまく答えられなかったという経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。実は私もその一人で、学習者さんに質問されてもすぐに答えることができず「先生の宿題にさせて」とお願いをした苦い過去があります。普段意識しない分、いきなり質問されると答えに困ってしまうことってけっこうありますよね。
ということで、本日は日本語の「こと」と「の」の違いについて、解説したいと思います。
【日本語教師&学習者必見】日本語の「こと」と「の」の違い
【問題1】( )の中から「こと」か「の」のうち適切なほうを選んでください。(両方使える場合もあります。)
1.今朝地震があった(こと/の)を知らなかった。
2.父が賞をもらった(こと/の)をとてもうれしく思います。
3.私の趣味は写真を撮る(こと/の)です。
4.いろいろ考えて、来年、大学院の入学試験を受ける(こと/の)にした。
5.本は2週間借りる(こと/の)ができる。
6.明日出張する(こと/の)になった。
7.ホテの部屋から夕陽が沈む(こと/の)がよく見えます。
8.小川:何してるの?
秋山:友達が来る(こと/の)を待っているのよ。
9. 今年の目標は漢字を200字覚える(こと/の)だ。
10. 私がたばこをやめた(こと/の)は、子どものことを心配したからです。
【解答】
「こと」と「の」両方使える⇒1、2
「の」のみ⇒7、8、10
「こと」のみ⇒3、4、5、6、9
「こと」と「の」が両方使える場合
「こと」と「の」は、次の「こと」しか使えない場合と「の」しか使えない場合以外は、基本的には両方使うことができます。両者の違いは、「の」のほうが「こと」より、より話しことば的である点です。
「の」だけ使える場合
① の=名詞の代わり(名詞化)
・CDプレーヤーを買いたいな。 3年前に買ったの(=CDプレーヤー)が壊れたから。
・この靴、ちょっと高いな。もっと安いの(=靴)はありませんか。
・客:素敵なかばんがたくさんありますね。一番上の棚の(=かばん)を見せてください。
「の」は直前に使われた名詞、「CD、靴、かばん」の代わりですが、「場所、時、理由」のような抽象的な単語を表すこともできます。そして、「の」がどれを示しているかは、文の内容からわかる場合もあります。
・私が生まれたのは、1985年です。
⇒「1985年」とあるので、「の」が「時」を表していることがわかります。
・私が生まれたのは、大阪です。
⇒「大阪」とあるので、「の」が「所」を表していることがわかります。
・授業に遅れたのは、電車が遅延したからです。
⇒「から」とあるので、「の」が「理由」を表していることがわかります。
② ~のが+形容詞(早い、速い、遅いなど)
・この薬は効くのが速い。
・病気に気がつくのが遅かった。
③ ~のが/のを+感覚(知覚)動詞(聞こえる、見える、聞く、見る、感じるなど)
感覚(知覚)を表す動詞の前では「の」しか使えません。
・どこかで猫が鳴いているのが聞こえる。
・隣の席の人が話しているのが聞こえた。
・田中さんが図書館から出てくるのを見ました。
・私の名前が呼ばれるのを聞いた。
・地面が揺れるのを感じた。
④ ~のを+その場でする動作動詞(手伝う、じゃまする、待つ、やめるなど)
・母が料理を作るのを手伝った。
・ここで先生が来るのを待ちましょう。
・テレビを見てるのをじゃましないで。
⑤ ~のは…だ(「…だ」を強調する)
『〇〇のは△△だ/です』という形をとり、△△の内容を強調する文を強調構文と言います。
・アニメの中で、私が一番好きなのはワンピースだ。
・この計画が成功したのはみんなのおかげだ。
・(レストランで)
A:お待たせしました。コーヒーです。
B:あの、私が注文したのは紅茶なんですけど…。
「こと」だけ使える場合
① Nは…ことだ 主語の内容について、後に続く文で説明する場合、その後ろの文を「~こと」で名詞化
文末が「です・だ・である」になる場合、「〜こと」しか使うことができません。
・将来の夢は歌手になることです。
・私の将来の夢は、自分の会社を作ることだ。
・私の趣味は知らない町を歩くことです。
・彼の欠点は時間を守らないことだ。
② ~ことを+伝達動詞(言う、話す、伝える、知らせる、約束する、祈るなど)
発話に関係する動詞、祈願に関係する動詞です。
・これからはちゃんと勉強することを約束します!
・国へ帰ることを先生に話しました。
・早くケガが治ることを祈っています。
「の」でもいい場合もありますが、「こと」のほうが使われやすいと思ったのでこちらに書きました。
③ 「定型表現」
以下のものは型として決まっているので、「〜の」と置き換えて使うことができません。
動詞(辞書形)+ことができる(可能)
・私は車を運転することができます。
・1000円で映画を見ることができますか。
動詞(辞書形/ナイ形)+ことにする(決定)
自分の意志で何かを決定したことを表すときに使う。
・プライベートレッスンを受けることにした。
・時間がないので今日はもう行かないことにした。
・健康のために駅まで歩くことにしている。
動詞(辞書形/ナイ形)+ことになる(変化の結果)
自分の意志とは関係なく起きることを表現するときに使う。
・四月から大阪支社で働くことになった。 - С апреля месяца было решено, что я начну работать в Осакском филиале
・ひどい暑さのため、今月のスポーツ大会は行わないことになった。
動詞(タ形)ことがある(経験の有無)
・アメリカに行ったことがありません。
動詞(辞書形/ナイ形)+ことがある(ときどき起こること)
・ロシアは5月でも雪が降ることがある。
・キムさんはときどき授業に来ないことがある。
・彼は家が遠いので、授業に遅れることがある。
ことになっている
規則や社会的な習慣について述べるときに使われる。
・この図書館では、1回に10冊まで本を借りていいことになっている。
このような定型表現は他にもあります。
まとめ
今回は「こと」と「の」の使い分けを例を挙げながら説明しました。このほかにも、たくさんの使い分けがあります。普段意識していないと、改めて日本語って複雑だな~と思います。なお、最後になりましたが、「こと」と「の」にはあいまいな点があるので、「どっちでもいいんじゃない?」というケースもあるかもしれませんが、そこはご了承ください。
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